抜けるような青い空、水平線まで続く碧い海。風と遊んでいるかのようにカモメ達が優雅に上空を舞っている。数千本のポールがひしめきあうヨットハーバー。桟橋の前は新鮮な魚と切花の朝市でにぎわっている。そう、ここはフランスの海の玄関口、マルセイユ。町並みを振り返れば燦々と朝日を浴びた赤レンガの屋根にある無数のマントルピースから白煙がたなびき、青い空に溶けてゆく。時折、顔をなでる海風が肌寒く感じられるけど、陽だまりのバールで飲むエスプレッソが、心も体も温めてくれる。そうだ! ブイヤベースを食べなくては。4年前に家内とここに来た時は、アルルからパリへ戻る列車の少ない乗り替え時間の合間に、旧港のレストランで急いで食べたから、今度はゆっくり味わってみよう。
「オヤッ、裸のバゲットを持っている人が沢山いるな」と、バールを出ると3軒隣がブーランジェリーだった。一番、焼き色の良い一本を買い求めて、ブラブラと海岸線の景色を楽しみながら、焼きたてのバゲットにかぶりつく私。明日はアルルでイースターです。
「多胡邦夫」を知っていますか。私のコラムにもしばしば登場する同じマンションの住人で、今をときめく作曲家です。というのは日本テレビのオーディション番組「歌スタ」の審査員をしているのですが、その番組に出演した木山裕策さんの歌唱力と、人間としての彼の生き様に惚れて、今年の始めデビューさせた曲が「home」。もちろん、作詞・作曲は多胡邦夫君で、一時はオリコンの5位にランクインする程のヒット曲なのです。昨年の大晦日の「紅白」で浜崎あゆみさんが歌った「together when…」も多胡君が作曲しました。最近では、3月4日のNHK歌謡コンサートに木山さんと一緒に出演したので、その祝いに我が家で「スッポン鍋」をごちそうしました。
スッポン鍋は奥が深いですね。うまいうまいと食べるのでなく、ただ黙々と小骨を口の中から吐き出しながらスープを楽しむ。野菜は、水菜と焼き長ネギが一番合うようで、最後の雑炊に邪魔をしない少量をしゃぶしゃぶ程度で頂きました。締めの雑炊は、塩も醤油もキザミ海苔も入れずにとじ玉子をフワーッとさせるだけ。したたり落ちる汗を拭きながら、雑炊をかっ込みました。多胡君は4月一杯全国キャンペーンだそうですが、4月16日の弊社主催のゴルフコンペには、今年も参加するそうです。
一方、私は3月21日から4月2日迄、南仏へ行って来ます。現地の"食"をリポートしますので、お楽しみに。
毎週私のコラムを読んでいただいて感謝申し上げます。
それにいたしましても書いている私は、実は毎週大変なんです。"ネタ"がない。"筆"が進まない。という訳で、昨年は相当サボってしまいました。その点を反省しまして、私なりに一生懸命、2008年は正月より毎週書かせて頂いておりますが、「いつも見てるよ。食べ物詳しいねー」とか「何言ってんだよー、嘘だろう、そんな訳ないでしょ」とか「ソレ、パンに関係あるの?」とか激励やらお叱りを頂くこともしばしでございまして、製パン情報として印刷・発送されてから、何度もまた読み直してみるのですが、いやはや恥かしい限りで赤面するわ、いきなり歩き始めるわ、はたまたホームページを開いて過去3年分も一気に読み返して又々恥じ入り、反省するわ。これ本当なんです。実は私、小心者なんですね。
先週にも取り上げた"超自己満足的自己表現"の極地でございまして、しかるに3分もすると、その恥じらいもどこかへ吹っ飛んでしまいます。この切り換えの早さは、我が家の2代目となる愛犬Ryuryu(リュリュ)と同じで、食事・散歩・ボール遊びの切り換えと同様でございます。Ryuryuが賢いのか、私が同等なのかは定かではございません。フランスの哲学者モンテスキューさんが言っています。
「私には著書を作る病癖があり、しかも著書を作った時にはこれを恥じる病癖がある」と。
モンテスキューさんと同じ境地に存在する私の病癖は、どう理解すれば良いのでしょうか。恒例のここで一句。
三寒は 四温のあとか 先なのか 思案の挙句 うたた寝の春
どうやら今日は四温のようで。お粗末様でございます。
「自己表現」について、少し考えたいと思いました。これは、自分の意見、考え、気持ちを表現することなのですが、常日頃私はどうも"超自己満足的自己表現"をしているようで、社会での人間関係が上手でないような気がしてなりません。できるならば、その場にふさわしい"表現"をするのが美しいのでしょうが、考える前に表現をしてしまい、半日もたってからその失態に気づいて「アッ」とか訳も分らぬ奇声を発して「何、パパ?」なんて家内につっこまれております。
まるで子供が泣くがごとくに自己表現しているさまを称して、還暦はハナタレ小僧とはよく言ってくれたもんです。
話は変わりますが、昨年末に発売されたミシュランの東京版で、「表参道のピエール・ガニェール・ア・東京」が2ツ星に輝きました。彼は若くして父のレストランを受け継ぎ、その独創的な料理で93年にはパリで3ツ星シェフに。しかし3年後に倒産してしまいます。それからの彼は確実な自己表現力で店を再生して、なんと2年後の98年に、またまた3ツ星シェフに不死鳥のごとく返り咲いたのです。そして2005年に表参道に開店した「ピエール・ガニェール」。先月、家内と行ってきました。その独創的な、挑発的、多彩な芸術ともいえるひと皿ひと皿を創り上げることができるのは、彼もまた"超自己満足的自己表現"力の達人だからなんだと感じた次第です。彼の満足は客の満足なのです。ありきたりではいけないのです。だから私は、彼の創作料理を食べて救われた気がしました。超自己満足の世界では同じ"友"なのではないのかと。