マイ・ペン・ライ
一年振りに訪れたタイ王国の首都バンコクは乾季の真只中ということもあって、熱気でムンムンしていた。 百年に一度といわれる世界同時経済不況もなんのそのと、傍目にはみえる活気ある街並みは、高層ビルの建設ラッシュに沸き、相も変わらず歩道には無数の屋台が軒を連ねて、どの店も食事をする人で賑わっている。大渋滞の道路には車やバイクが溢れ、クラクションとエンジン音がひっきりなしに聞こえる。でも、これは騒音ではない。耳にうるさくないクラシック音楽のようであるから不思議だ。 タイでベーカリーのホールセールのシェア70%を超えるプレジデント・ベーカリーの新工場建設も佳境を迎えていた。敷地約二万平米に建つ、地上六階建ての総面積約三万九千平米におよぶ、開業すれば東洋一となるであろう最新式の設備を誇るこの第二工場は今年の八月にはフル稼働する予定だ。 タイは貧しい国民が国を支えている。タイバーツは昨年に比べ、日本円と比較すると30%以上も値を下げているが、関心があるのは一握りの金持ちだけだ。屋台で隣に居合わせた、カオパット(タイ風チャーハン)を頬張る客にこのことを尋ねたら「マイ・ペン・ライ(問題ない)」と、とびきりの笑顔が返ってきた。 もうすぐソン・クラーンだ。この水掛け祭が終わるとタイは長い雨季に入る。