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コラム 三寒四温

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ドン・ゾイロ

 25、6年前頃に読んだ、タイトルは忘れましたが、ある小説の一節が今でも妙に頭に焼き付いて離れません。私はその小説を自室で夕刻より読み始めたのですが半分ほど読み進んだあたりの一節が私に衝撃を与えてくれました。うろ覚えながら内容はこうです。
  スペインに駐在している若手の商社マンの元へ久しぶりに日本から恋人が訪ねて来た。主人公は迎えた空港から小一時間ほど車を走らせ、とある田舎町の小洒落た小さなレストランに車を止める。「素敵なお店ね」と、白いワンピースのスレンダーな彼女は彼の腕をとり店に入る。それにしても今日は暑い一日だった。「一つ星なんだけれど、リーズナブルな値段で地元の食材を中心に、毎日メニューを変える家庭的な店なんだ」と店の説明をしながら席に着くなり、彼はシェリー酒をソムリエに注文した。よく冷えたグラスに注がれたそのシェリーを口に含んだ恋人は、思わず目を閉じてドライなシェリーの喉ごしの余韻を楽しんでいる。「なんておいしいの! こんなシェリーは初めてよ」。「よかった。料理もそうだけど、君にこのドン・ゾイロを飲ませたかったんだよ」。「口説き上手なセリフね」。テーブルに置かれた小さなキャンドルが吐息に揺れている。
  私はパタリと本をたたみ、高円寺の行きつけのフレンチレストランへ小走りに向かった。22時を少し回って、レストランは私と入れ替わりに最後の客を送り出したところだ。「どうしたの、菅田さん」と総料理長がニコニコと近づいてくる。「ドン・ゾイロある?」。「ごめん、ティオペペしかシェリーはないよ」。「やはりねー、残念だけど。それじゃあ、それを一緒に飲もうか」。従業員が掃除や片付けをしている脇を抜けて、2人でバーカウンターに座り、その本の話を私はシェフに話した。話は夜中まで続き、従業員も参加してティオペペと3本のワインを空にした。食い物談義は留まることを知らない。
  翌々日に私はその「ドン・ゾイロ」と対面することになるのだが、まるで、まだ手もにぎったことのない恋人に逢うような高揚感を持って栓を開けたのを覚えている。無性にあれが飲みたい、食べたい、という感情を抑えられなくなる事ありませんか? ですから、私の家には私のお気に入りの日持ちのする食材は必ずストックしてあります。だってそうでしょ。フランスのアルルで食べたタプナーゼ、パリのラッフルズ食品館でイベリコの生ハムを売っているカウンターの脇に置いてあるニンニクトマトソースの瓶詰め。どちらも薄切りのバゲットにディップして食べるのですがサラダにかけても絶品です。そしてパリの定番のウナギの燻製。これは少しずつ切り分けて骨と皮をとって食べるのですが、程よい脂に赤ワインが良く合います。いずれも日本では手に入らない逸品です。北海道に旬のウニを食べに行くのはお洒落ですが、フランスは遠すぎます。

弊社社長 菅田耕司のコラム


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