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コラム 三寒四温

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お盆の味

 田舎のバスはオンボロぐるま。ガタガタ道をガタゴト走る。これにメロディーをつけられる方は私と同年代か、近い方だと思われます。長く突き出たボンネットのバスには、大きなガマ口を首から吊るしたバスガイトがガタガタ道を走るバスの中で両足を踏ん張って切符を売っていました。硬いスプリングの赤いベンチシートは舗装されていない砂利道を走ると妙にクッションが効いてついうとうとと寝ていたのを懐かしく思い出します。
  もう50年以上前になりますか、上野から準急の汽車に乗って約90分。常磐線の土浦から私の母の実家、筑波山の麓にある真壁までこのオンボロバスに揺られて60分あまり。小学校低学年の私にとってはとてつもなく長い初めての一人旅の思い出であります。母の実家には真白の長いあご髭のおじいちゃんと、腰の曲がった小さなおばあちゃんが私が来るのを待っています。「着いたよー」と元気に広い土間から声をかけると、百年以上燻されているでしょうか、囲炉裏の煙で時が作ったあめ色の竹組み天井の下の囲炉裏端に二人が正座して、「こっちゃ来い」とにこやかに手招きしています。
  お髭のおじいちゃんは若い頃は近衛連隊の中尉で、皇居で天皇陛下をお守りしていたのです。母のアルバムの中に二重橋の前で羽のついた高い帽子と金ぴかのサーベルを着け、白馬にまたがったおじいちゃんの勇姿がセピア色で残されています。
  あれから何十年の時が流れたのでしょうか。「耕司が好きだからね」とおじいちゃんが裏の竹林に出かけ、ナタでうどんをすくう竹のフォークを作っていると、腰の曲がった小さなおばあちゃんがうどん玉の上に敷いたビニールシートに乗ってうどんを伸ばしています。「ほれ、耕司も踏んでみろ」と素足でビニールに包まれたうどんに乗って「上手なもんだね」とおだてられ、生地をひっくり返しては「もういいよ」と言われるまで得意になって踏んでいたものです。スープはゴマを擂ったそのすり鉢に冷えた味噌汁を流し込み、大葉やミョウガ、長ネギのみじん切りを混ぜれば出来上がり。筑波山から流れてくる雪解け水が木の筒を通って井戸端までつながっています。茹でたてのうどんは夏でも刺すように冷たいその天然水でよく洗ってぬめりを取り、桶に盛られたうどんを竹のフォークですくって汁にたっぷりつけて食べるんです。
  お盆になるとこの味を味わいたくなります。

キンキ 王道の食し方

 以前に取り上げました「キンキとメンメ」では、多数の読者の皆様からお問い合わせをいただきました。「本当にお湯で煮るだけで、ウスターソースをかけておいしいの?」「まずくはありません。考え方次第です。煮魚という概念を捨ててから召し上がって下さい」と答えました。
  少し大げさにおいしそうに書きましたが、「それはそれでおいしかったよ」とお褒めのメールも頂きました。しかし、キンキを甘辛く煮魚として食すのは王道でございまして、北海道の皆様には大変申し訳ございませんが、少し道を外れた"一地方の食文化の形"としては大変参考になりましたこと、お礼申しあげます。
  昨夜、私はキンキの王道煮をいただきました。私は水は入れずに、大きめのフライパンにウロコを取ったキンキを寝かせて、たっぷりの日本酒を注ぎます。そして強火で酒が沸いたらたっぷりの砂糖をキンキにかけ、その上に生醤油を回しかけます。生姜ひとかけと長ネギのぶつ切りを入れるのを忘れてはいけません。中火にしてしばらくすると食欲をそそるいい香りを含んだ湯気がキッチンに立ち込めます。日本人にとっての味覚の原点である醤油が、砂糖・酒と相まって、しかもキンキの脂と乳化していい感じのタレができあがり、キンキに味を含ませております。肝を腹の中に入れたままにするのを忘れてはいけません。これは驚くほどの美味なんです。
  煮立てたキンキをひっくり返すのはご法度です。鮮やかな朱色の表皮が傷ついてしまうからです。目で見て味を楽しむのも料理の王道でしょう。だからスプーンで表面にまわりの熱いタレをかけ続けます。
  荒ぶりの釉薬が美しい源右衛門窯の大皿に盛られたキンキはヒレがピンと立ち、プルッと膨れた朱色のその背も腹もただ者の魚ではない存在感に圧倒されます。「まあ、香りからして甘いわ、キレイでおいしそう」とは家内。そして最初に箸をつけるのも家内。首をふりながら「オイシイー」の連発です。キンキの煮付けには熱燗が良く合います。さ、奥方、もう一杯いかがですか。
  肝は半分残しておいてね。

運命の出会い

 「札幌に行ったら、まずは美味しいラーメンを食べなくてはね。それとジンギスカンでしょ、カニでしょ、殻付きのウニもぶどう海老も、あー、全部食べたーい」と、先月駐日チュニジア大使と一緒に行った神楽坂の料亭に来られたお姉さまがおっしゃっておりました。でも、ラーメンだけは期待を裏切られますよー。私の知る限り行列のできる店もラーメン横丁の店も今まではすべて裏切られ、麺とスープを一口ずつ味見してから箸を置きお勘定を済ませます。お店にとっては随分と失礼な話ですよね。そんな私が偶然にも今年の春、一軒のおいしいラーメン店を札幌で見つけてしまいました。
  今までは土地の人に聞いたりグルメブックを見たり、行列の店に並んだりと札幌を訪れる度に食べ歩きをしていたのですが、まさに運命的な出会いってあるものですね。その店は探すでもなく、何気なく通りがかってフラッと気分で呼び込まれたのです。トンコツなんですけれど、臭みは無くあっさりと、醤油がブレンドされて魚のだしも舌が探し当てる。といった塩梅なのですが、どれもケンカすることなく最初の一口から最後の一滴まで飲み干せる私にとっては理想的な味の饗宴でした。中太麺は少しのアルデンテでほどよくスープに絡んでいます。なんといってもこの店のチャーシューが絶品でしたね。ラーメン店のチャーシューって、なんかクスリ臭かったりして、なかなかこれは! というチャーシューには出合えません。絶対に初めてのラーメン屋では私はチャーシュー麺は頼みません。
  その店のラーメンはわたし的には、たぶん2度目に訪れたときが心配であります。7月に札幌へ出張の予定がありますので、その時にまた私を感動させてくれたら、私は紙上で紹介させていただきます。あのときの味がマグレでないように、閉店していませんようにとただただ祈るばかりです。それにしても神楽坂の「料亭・牧」の料理は本当に独創的で美しくておいしい。お手製の「カラスミ」は特に絶品この上なしです。食彩の王国というTV番組でも度々取り上げられる調理場の親方の創り出す芸術的な料理は、いつ来ても私達を満足させてくれます。
  その親方に、まかないのラーメンを作って欲しいとお願いしました。どんなラーメンを食べさせてくれるのかとても楽しみです。

募捐箱

6月のコラムで書いた「ニンニクをかじりながら蒸し餃子を食す習慣のあるのは、中国・広東省の北に位置する一部の集落らしい」との情報を、上海出張の折、聞いて参りました。秋にはまた中国へ出かける機会があるので、今度は2、3日その集落にホームステイをして田舎料理と生のニンニクをかじりに行くのを楽しみにしております。
  今回の上海出張でカルチャーショックを受けた事を二つお話しします。上海のオークラ・ガーデンホテルの裏に「水秀坊」というマッサージのお店がありまして、仕事疲れの凝りに凝った全身を120分ほどほぐしてもらった後に、手足の爪を切ってもらうことにしたのですが、ナントここの爪切りは、爪切りではなくて"爪削ぎ"だったのです。いやあ、びっくりしました。というのは、洋食のスプーンを連想して下さい。先のオタマがなくもつ柄のところだけ、そしてその柄の先はノミのように鋭利に研がれています。そのノミで伸びている爪を円を描くように削いでいくのです! これは恐いですよー。私の親指は両方とも巻き爪でありまして、それを当たり前ですが私の目の前でまるで彫刻を彫るように、滑るように上手に削いでゆくのですが、見ている方は滑って肉まで削がないかと、ひやひやの連続であります。ですがその心配もよそに芸術的なノミさばきにひび割れた茶褐色の巻き爪もかわいい小指の爪も赤ちゃんの爪のようにきれいになりました。これはすごい!
  両手両足で50元(日本円で約750円)。この技術でこれは安いという訳で、芸術を見せてもらった事だしチップを渡そうとしたら、着替えをしている間に爪切りマンは消えてしまったので、会計を済ませたところにどこの国でもお見かけする赤い募金箱があったので寄付でもするか、とよくよく見ると、ナント中国語で「募損箱」と書いてありました。"ぼそんばこ"って、ナンジャーコレー! という訳でありまして、50元募損してホテルに帰りまして、よくよく聞いてみると「損」は「捐」で、中国語では募金の意味らしく、見た目で判断してはいけないという教訓をいただきました。

弊社社長 菅田耕司のコラム


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