陽の当たらない路地に寄せられた雪がほんの少し残っている新宿西口の〝思い出横丁〟へ久しぶりに行ってきました。鯨カツ、もつ味噌煮込み、牛レバー刺し、ホルモン焼きを、昔懐かしいデンキブランであおりながら楽しみました。細長い店内の長椅子にメジロ押しに座るとホルモンを焼いている煙が時折り襲来してきて目が痛くなるのはご愛嬌で、威勢のいい鉢巻をしたお兄ちゃんの団扇さばきと、おしくら饅頭でグラスをあおるようなその雰囲気が酒も肴も会話もおいしく仕上げているのでしょう。
ひと昔前は〝しょんべん横丁〟と呼ばれた、ここ〝思い出横丁〟は今では新宿の観光名所にもなっていて雑誌の記事やマップを片手に、「あっ、ここ、ここよ。焼鳥を焼いているお兄さん。ホラ、同じ顔でイケメンじゃん」女の子同士でも入れる親しみやすさを演出してくれております。〝めし屋〟もいいですね。入り口には「酒やビールはありません!」と貼り紙がしてある、純食堂であります。カウンターの上のガラスケースには、小鉢にマカロニ、小皿には千切りの少量のキャベツの上にコロッケが一つ、ほうれん草のお浸しや、肉じゃが、イワシの梅煮など、ところ狭しと置かれています。鰤の照り焼きにコロッケとしじみの味噌汁が私の定番オーダーでして、時には丸々と太ったイワシ定食もいいですね。あっ!ゴボウの天ぷら一つ追加ね!天ぷらは醤油をかけて食べるべし。2人、3人で行く時にはカウンターが〝韓定食〟みたいに箸の置き場がないほどに注文するのが楽しみな〝思い出横丁〟の「めし処」。最近は本当にトイレも横丁もキレイになりました。一度ご夫妻や恋人同士でお出かけして見てはどうでしょうか?入る店に迷ったら最初に気になった店に入れば、外れはありません。私の好きな店は入口で串モツを味噌煮込みしている小さなお店です。
カクテルはお好きですか?
私がカクテルに最初に出会ったのは、社会人1年生の秋に初めて訪れたハワイ行きの機内でのドリンクサービスで、前席の麗しき女性が「ミモザ」を注文したのを見て、私も真似してスチュワーデスさんに「ミモザね」なんて、いかにも知っているように注文したものです。100%オレンジジュースをシャンパンで割る。そのシンプルでお洒落なカクテルはとてもおいしいのですが、武骨な男よりも麗しき女性に飲まれるのがお似合いのカクテルのようで、今ではもっぱらカクテルといえば、どこのバーに行ってもドライマティーニを楽しんでいます。特にドライマティーニといえば、溜池山王に95年前に大隈重信公が創立した会員制倶楽部「永楽倶楽部」のカウンターバーの、赤いチョッキがお似合いな御年85歳になられる福島バーテンダーの〝神の手〟に作られし〝ドライマティーニ〟は絶品でございますよ。カウンター越しに福島名人の「神技」ともいえるシェーカーさばきとカクテルグラスの中の氷をステアしながら冷やす動作の美しいこと。出来あがったマティーニをカウンターに置かれて「はい、どうぞ」と笑顔がまた素晴らしい。もちろん味も全てが絶品でございます。
先日、日比谷公園内の池に氷が張ったとニュースになった日の寒い寒い夜に、行きつけの寿司屋のカウンターで家内と2人で竹筒に入れられた〝佐渡の地酒〟を飲みながら寿司をつまんでいたところ、急に飲みたいカクテルが私の脳を刺激しました。以前から頭の隅に置いてあった気になるカクテル〝ブル・ショット〟「そうだ、オークラへ行こう」噂には聞いていたが、「絶対の一品」と堂々と宣言しているオークラのコンソメを使用するというブル・ショット。こんな寒い夜は極上のオークラ特製コンソメスープにウオッカなんて身体も温まってちょいとお洒落ではありませんか。フィンランドでは禁酒日にレストランでそっと提供されているとかで、とても楽しみです。作るのに時間が20~30分かかるというわけで〝バロン〟でブランデーをなめながら待つこと20分、お待たせしました、とうやうやしくテーブルに置かれたグラスを見て、「あれえ、冷えてんの?しかもドロドロじゃん」「ショック!これは無いよー」でも飲んでみるとなかなかおいしい「ウオッカの入ったコンソメゼリーだ」「いやー、これはこれよねー」と家内。「何が言いたいの?」「それではビシソワーズにジンはどうでしょう」「いいかもね」「クラム・チャウダーにはテキーラ、コーンポタージュには…」「いい加減にしなさい!」
1月29日、大相撲立浪部屋所属の幕内力士・猛虎浪関の結婚披露宴がホテルニューオータニにて、たにまちや関係者など240余名が日本全国より参集して盛大に挙行された。モンゴル人から日本人に帰化している猛虎浪関、というわけでモンゴル出身のほとんどの力士が出席していた。もちろん大横綱・白鵬関、大関・日馬富士関もそのオーラを会場に放っていた。
家内は大の大関・魁皇関のファンで、魁皇関を見つけるとすぐにツーショットで記念撮影、次は白鵬関と一緒に撮影するなど「あなたも一緒にどう?」などと遠慮もなくカメラに向かってポーズを決めている。
私達のテーブルにはモンゴル出身の五月人形のようなキレイな顔立ちの幕内力士・光龍関が同席しての祝宴だ。各テーブルにも関取が同席している。プーンとビンつけ油の香りが鼻を掠める。華やかな雰囲気に樽酒のハイも進む。
私達は1月場所の5日目に正面土俵下の維持員席をお茶屋さんに都合してもらって観戦したものだが、土俵下から観る相撲は迫力が違う、時に力士が目の前に飛んでくるのだ!猛虎浪も勝ち、その日の取り組では一番多くの声援を受けた魁皇関も勝った。「カ・イ・オー!」のかけ声が館内あちこちから飛ぶ。幕内最古参大関・魁皇関が全力で勝負に挑んだ結果の勝利。15日間を戦いきり勝っても負けても〝全力〟で戦うから千秋楽で流す涙がある。勝ち越したから嬉しいとかでなく、負け越したから悲しいのではない。こんな美しい涙を台無しにする事件は、翌週に各朝刊紙の一面を賑わした。八百長事件の発覚である。その八百長を裏付けるメールのやり取りをした13人の力士の中に結婚式で同テーブルにて酒を酌み交わした光龍関の名があったのが残念でならない。一日も早くこの問題が解決して「国技」の全力相撲を観たいものだ。
今年の節分はどのようにお過ごしでしょうか。「福は内、鬼は外!」と枡に入れた豆を小さな手に大づかみで真剣に大声で投げていたのは、もう60年近くも前のこと、そして一粒一粒拾って歳の数だけ食べたのは、とても良い思い出です。畳や床に落ちた豆を〝キタナイから〟と言って捨てた記憶はございません。最近の子どもたちはひ弱になりました。絶対に床に落ちた食べ物は口にしません。「少しくらいのバイ菌は免疫を作るのにとやかく言うな!」なんて娘には指導してきましたが、孫にはさすがに言えませんね。「バッチイ、バッチイ。ポイしましょう」。
その昔、毘沙門天が「大豆で鬼の目を〝打て〟」と命じた伝説から、今では豆を〝まく〟のが主流とかで、時が経ち、ある地方では豆まきの掛け声で「鬼は外」と言わないところがあるそうで、「福は内、鬼は内」と言いながら豆をまくのだそうです。追い出すよりも仲良くする知恵なのでしょうか。
最近ではバレンタインデーのチョコレートのように恵方巻きの風習もその商魂も注目されますね。節分と言えば歌舞伎の「三人吉三廓初買」で節分の夜に大川端にて、ひょんな事から夜鷹を川に突き落として百両の小判を奪った美しき女装の盗賊「お嬢吉三」の名セリフ、たんと聞いておくんなせえ。
月も朧に白魚の 篝(かがり)もかすむ 春の空
冷てえ風にほろ酔いの 心持ちよくうかうかと
浮かれ烏のただ一羽 ねぐらへ帰る川端で
竿の雫か濡れ手で粟 思いがけなく手にいる百両
ほんに今夜は節分か
西の海より川の中 落ちた夜鷹は厄落とし
豆だくさんに一文の 銭と違って金包み
こいつは春から
(ト、トン、トンと拍子木が入って大見得を切る)
縁起がいいわえ
音羽屋! いやー、歌舞伎って本当にいいですね!