葉さくらの
舞い落ちる さき
落ちつばき
かさなり 染まる
侘びも また粋 耕麻呂
庭に面した2階の書斎が私の仕事場で、癒しの〝場所〟でもあります。ある時には何時間も舞い散る桜の残り花や枝に蠢(うごめ)く虫をつつきに訪れる鳥たちを何時間も眺めて過ごしながら、思いついたようにペンを走らせては、また庭に目をやり、刻々と変化する自然の美しさを魅入りながら仕事が出来る環境は、私をはじめ共に働く社員の感性をも高めてくれるようです。天気の良い日には、ときには庭のポーチに置かれたテーブルでランチのサンドイッチを片手に、即席の編集会議。良い気分転換になって会話も弾みます。
昨日は、程ヶ谷カントリークラブにて、弊社創業65周年記念ゴルフコンペが行われました。程ヶ谷も、葉桜で残り花が舞い散る中、鶯の鳴き声があちらこちらで聞かれるなど、天候にも恵まれた44名の参加者は和気あいあいと気持ち良くプレーを楽しまれた事と思います。
今週末からスタートするゴールデンウイークはどのように過ごされますか? ちなみに私はというと、ここの定席で訪れてくる鳥たちを観察しようと思っているのですが、家内は11人の孫たちを集めて、庭でバーベキューパーティーを楽しむ算段をしております。どちらにしても、今年のゴールデンウイークは嬉しさも一入の、さわがしい限りです。
(前号からの続き)
「サンキューベリーマッチ、ジョイン・アス」と100ユーロのチップ3枚を手渡した私。すると彼女もルーレットに参加してきました。彼女はそれを25ユーロチップに両替して1点張りではなくランダムに賭けます。ほとんどの観客は恐るおそる、5ユーロほどを相乗りです。しかし、当たりはきません。次も、その次も彼女は外して、そしてグッド・ラックと投げキッスをふりまいて颯爽と姿を消しました。何が今、ここで起こったのか。しかし、ルーレットの白い玉は何事も無かったかのように次の勝負に回り続けます。ちなみに彼女が最後に賭けた3回は、いずれも結果は「0」と「00」で、ディラーの総取りとなった偶然という奇跡も、つけ加えておきましょう。
さて、日本に帰国してから、毎週日曜日は池の上キリスト教会へ日曜礼拝に家内と揃って行くのですが、その日に限って偶然にも聖書をパラパラとめくると、ヨハネの黙示録13章16~18節が開かれました。
小さい者にも、大きい者にも、富んでいる者にも、貧しい者にも、自由人にも、奴隷にも、すべての人々にその右の手かその額かに、刻印を受けさせた。
また、その刻印、すなわち、あの獣の名、またはその名の数字を持っている者以外は誰も、買うことも、売ることもできないようにした。
ここに知恵がある。思慮ある者はその獣の数字を数えなさい。その数字は人間をさしているからである。その数字は六六六である。
聖なる数字〝7〟から1足りない「不完全な数字」の〝6〟さらにそれを3回繰り返すと、不完全さの要素をより高めた「完璧な不完全」=666になるというのが、映画「オーメン」のとても有名なシーンです。
ちなみに、モナコのカジノで彼女が口にした3回の数字にも全てに〝6〟が入っていたのは偶然でしょうか。そして、彼女が3回BETした数字が全てディラーの総取り数〝0〟と〝00〟で決着した勝負。そこで何が起こっていたのか、私たちはいっとき、悪魔の支配するミステリーゾーンに入り込んでいたのかもしれません。そう言えば、チップを手渡した時、彼女の手のひらに何か書いてあったような…。
「今日はついているかもしれないね」とKさん。「それでは菅田さんが負けた、ルーレットで少し遊んでみますか」と、一つだけ空いていたディーラー脇のイスにKさんは座ります。そして、ゲームの前に気前よく私の負けた1000ユーロを後ろで見ている私にご祝儀でポンとくれました。「男気があるねえ」。Kさんは25ユーロのチップを細かくBETして、勝っても少し、負けても少しの一進一退の勝負が続きます。
そんな時、私の後ろからささやくように「トゥエンティーシックス」と女性の声が聞こえてきました。振り返ると、アジア系の女性2人連れ、歳の頃はアラフォーといったところの丸顔の笑顔の可愛い多分お姉さんの方でしょうか、合った瞳がウインクをしています。「Kさん26番、BETしてみない?」「いいよ」と25ユーロ1枚の一点張り、Kさんの初めての一点張りです。ノーベッティングのベルが鳴らされ、白い玉がカチャカチャと音をたてて数字の上を大げさに移動します。そして、入った数字は…。ディーラーの当たり数字をしめすプラスティックのボードが何と、Kさんの25ユーロのチップの上に心地よい「カチャ」という音を立てて置かれました。36倍の儲けです。「ヘェー」Kさんと私は驚きながら目を見つめ合いましたが、単なるグウゼン(・・・・)との思いに900ユーロを手にした高揚感が昂ぶります。
ディーラーが白い玉をルーレット盤が軽く回る逆方向に力強く回し入れました。すると、「シックスティーン」と再びあのアラフォーのお姉さん。振り向けば、拳を握って〝イケ、イケ〟と言っているのかな。「Kさん、今度は16番だよ」「OK」とKさん。遠心力を失った白い玉はルーレットの盤面に滑り落ちてナント、16番の中に納まったではないですか。「すごい偶然だね」私たちは顔を見合わせて絶句しました。2度の、しかも一点張りでの大当たりなんですから。そして彼女はニコニコと優しい声で次は「シックス」と、盤面に目をやり、ささやくように一言。2度の奇跡を見ていた周りのお客はどうして反応しないのか、とても不思議な雰囲気の中、「3回目は無いよね」といいながらもまた25ユーロを賭けると、ナント「6」が来たではありませんか。大きなどよめきがルーレット台の周りの時を支配します。これは本物の奇跡でしょうか。偶然が生んだ奇跡。数学的に計算しても何万分、いや何百万分の一の確率ですよね。Kさんは私を介して、声の主であるアラフォーのお姉さんに300ユーロ分のチップをご祝儀として渡してくれと私にゆだねました。
「まさかこの人が…」 (以下次号に続く)
「あっ! こんな事って、あるんだ」というような、不思議な体験した事ありますか? 私の不思議体験をお教えしましょう。それはたまたまの〝偶然〟であったのか、〝奇跡〟であったのか、とにかく理解を超えた出来事でした。そして余りにも強烈過ぎるほどのインパクトのあとに、あっけないフィナーレを迎え、そしてその後には……。
それは6年程前に、弊社の海外視察旅行でモナコ公国を訪れた時の事でした。世界的フレンチの巨匠、アラン・デュカス氏が経営するフランス料理のレストラン「ルイ・キャーンズ」は、モナコで唯一の5つ星ホテル、オテル・ド・パリの1Fにある3つ星レストランです。ここで私たち視察団一行は、その洗練された世界屈指のホスピタリティーあふれるサービスをまのあたりにしました。そして料理は最高の食材をシンプルかつ、素材の良さを存分に引き出していて、デュカス氏の美しすぎる料理の一皿ひとさらに至福の時を共有したものです。
3時間にも及ぶフルコースを堪能した一行は余韻を味わいながら、エキサイティング過ぎるモナコの長い夜をエンジョイするためにホテル前のカフェのガス灯の下でエスプレッソを楽しみ地中海から吹き抜ける爽やかな潮風と無数の大きな星空の下で異国情緒をたっぷりと満喫したのち、まるで誘蛾灯のように光り輝くカジノのネオンサインに吸い込まれてゆくのでした。
私はルーレットであっという間に1000ユーロをやられてしまい、ベーカリーのK社長が遊ぶスロットマシーンをぼんやりと横で見ていました。始めて10分程、Kさんが台を移動しようとして最後のスロットレバーを引いた時、まさに奇跡は起こったのです。突如鳴り始めた甲高いベルの音、画面を見ても3つの絵は揃っていません。なぜ? しかしベルは鳴り止みません。大勢の人だかりができました。そこへ黒服の、大げさな鍵の束を持った関係者がやって来て、コインの投入口に何やら長い棒を差し入れると、ようやくベルが鳴り止みました。「ついて来い」とアゴをしゃくる黒服。「なんて横柄な奴だ!」とKさんと目くばせしつつも期待に胸をふくらませて後を着いて行くと、頑丈な鉄格子で造られた両替所の前で数分待たされたのち、小切手を渡してくれました。15000ユーロ。当時は1ユーロが150円ですから、大変な金額です。そしてこれが、これから起こる〝偶然〟の、それもとび抜けた〝偶然の一致〟による〝奇跡〟が起こるプロローグだったとは! (次号に続く)