築地場外のカレー
正月明けの築地魚市場初競りの日に、無性に食べたくなったカレーライスを求めて昼前に場外へひとり繰り出しました。築地通りに面した通路には有名なラーメン店ときつねそば店が軒を構えているのですが相変わらずの大盛況です。飛び交うことばは中国語と韓国語ときたま日本語といった調子で、なるほど反対側の道路には数台の大型観光バスが停車していました。東京観光の目玉のひとつで、ここでラーメンときつねそばを食べるのが〝通〟なんだとか。そして築地に来たら、包丁を買うのが最近のアジア系観光客の行動パターンだそうです。
その人込みをかきわけて、カレーライスを出すカフェに向います。吹きさらしの7人程座れる奥行の狭いカウンターの中には、人の良さそうな老夫婦が老舗カフェを何十年と切り盛りしています。客は市場で働く人達がメインで、観光客は「何かしら」という具合で素通りです。マニアが時たま訪れるくらいでちょっとした真空地帯となっています。「最初にコーヒーを、カレーライスは大盛りでお願いします」「大盛りは一〇〇円高い六〇〇円だよ」。律儀者の店主のいつもの決まり文句に「はい」と素直に返事を返して熱いコーヒーをすすります。日中は晴れても10度には届かないと、今朝の天気予報で知ってはいたのですが、コーヒーカップを両手で包んで思わず暖をとるほどに陽の当たらないカウンターは寒さがひとしおです。「ハイ、おまたせ!」、カレーライスの登場です。船形の容器に山盛りのご飯とヒタヒタに入ったカレーの湯気が、もう既においしそうです。らっきょうと福神漬けは食べ放題、嬉しいですね、しかも高級品ですよ。スプーンですくったご飯にたっぷりカレーをのせて「ああ、この味!この味!」。芋も人参も玉ネギも肉も全てルーに溶け込んだ昔懐かしいカレーです。気付くとカレーがほとんどなくなって、ご飯が少し残ってしまいました。私の本領はここからなんです。ご飯を器のそこここにこびりついたカレーに、こすり付けるように舐めるようにして食べる。茶懐石の飯茶碗を洗うカレーバージョンが私の好みです。ドイツやフランスではパンで残りのソースをぬぐい取りますよね。それを見ていた店主が「カレー、少し入れてあげるよ」と親切に言ってくれましたが、「これが好きなんです」と答えると、にこりと「遠慮は無しだよ」と江戸っ子らしい優しい心遣い。
昔の味を頑固に守っていつも変わらない味を提供してくれる店主の心意気と自然体のホスピタリティ。ここにマニュアルはありません。ハイ、〝ごちそうさん〟です。
その人込みをかきわけて、カレーライスを出すカフェに向います。吹きさらしの7人程座れる奥行の狭いカウンターの中には、人の良さそうな老夫婦が老舗カフェを何十年と切り盛りしています。客は市場で働く人達がメインで、観光客は「何かしら」という具合で素通りです。マニアが時たま訪れるくらいでちょっとした真空地帯となっています。「最初にコーヒーを、カレーライスは大盛りでお願いします」「大盛りは一〇〇円高い六〇〇円だよ」。律儀者の店主のいつもの決まり文句に「はい」と素直に返事を返して熱いコーヒーをすすります。日中は晴れても10度には届かないと、今朝の天気予報で知ってはいたのですが、コーヒーカップを両手で包んで思わず暖をとるほどに陽の当たらないカウンターは寒さがひとしおです。「ハイ、おまたせ!」、カレーライスの登場です。船形の容器に山盛りのご飯とヒタヒタに入ったカレーの湯気が、もう既においしそうです。らっきょうと福神漬けは食べ放題、嬉しいですね、しかも高級品ですよ。スプーンですくったご飯にたっぷりカレーをのせて「ああ、この味!この味!」。芋も人参も玉ネギも肉も全てルーに溶け込んだ昔懐かしいカレーです。気付くとカレーがほとんどなくなって、ご飯が少し残ってしまいました。私の本領はここからなんです。ご飯を器のそこここにこびりついたカレーに、こすり付けるように舐めるようにして食べる。茶懐石の飯茶碗を洗うカレーバージョンが私の好みです。ドイツやフランスではパンで残りのソースをぬぐい取りますよね。それを見ていた店主が「カレー、少し入れてあげるよ」と親切に言ってくれましたが、「これが好きなんです」と答えると、にこりと「遠慮は無しだよ」と江戸っ子らしい優しい心遣い。
昔の味を頑固に守っていつも変わらない味を提供してくれる店主の心意気と自然体のホスピタリティ。ここにマニュアルはありません。ハイ、〝ごちそうさん〟です。