子雀のピーちゃん
家内と一緒に編集部が表で何やら騒いでいます。
「どうしたの?」と私がそこへ行くと、
家内の手には小さな“子すずめ”が一羽、羽を弱々しくはばたかせていました。皆が心配そうにのぞき込んでいます。
もう一度、どうしたの? と尋ねると、
「巣から落ちたみたいだわ」と家内が答え、皆が頷きました。
「親鳥が心配しているんじゃないのかしら」
「まずは巣箱を作って…」
「お腹を空かせているんじゃないかしら?」
日頃の業務にも増して迅速な連係プレーで各自役割を果たし、あっという間に子雀はクッション替わりにちぎった新聞紙が敷き詰められた小箱の中へ。ネット検索で「巣落ちした子雀のエサへのやり方」を調べ、嘴を開けさせてハチミツ水を一滴ずつ飲ませています。
すると誰かが「アワやヒエでもいいかもね」と言い、十五穀米の小袋からより分けて巣箱に入れました。
桜の木の下に駐車している私の車の屋根に小箱を置いて、ひとまず室内から観察することにしました。すると親雀でしょうか、辺りを警戒しながら小箱の周りを飛んで、一度だけ中にサッと入ったかと思ったら、すぐに飛び去ってしまいました。
夕方になり、今度は庭の楓が枝分かれしているところに小箱を移して斜めに屋根をつけて置き、今夜は様子を見ることに。
「親が迎えに来て一緒に飛んで帰れるといいわね」
皆が「ピーちゃん、また明日ね。頑張ってねー」
と声をかけて退社します。
18時、夕焼けの茜色が広がる空の下、町内のスピーカーから“夕焼け小焼け”のメロディーが流れてきました。
翌朝、ピーちゃんは生きていました。ただ昨日、一度車の屋根から飛び上がろうとして落下した時に首を傷めたようで、痛々しく首が上がりません。それでもハチミツ水をあげると羽をパタパタさせます。
「獣医さんに診てもらいましょうよ」
皆の意見に応えて家内がネットで探した近所のペット病院へ、さっそく社員が自転車で連れて行きました。結果は……皆、息を飲んで聞きます。
「ブドウ糖を2~3時間おきに服用させる事、あとはこの子の運次第とのことです」
皆、ホッとした表情で「ピーちゃん頑張れ!」と励まします。翌日は土日をはさみ、日曜は私共も終日家を空けるので、3時間ごとのエサやりもままならぬということで、一日入院させる事にしました。
そして月曜日の朝。
病院から悲しい知らせがありました。
家内は涙目でバイクを走らせます。
冷たくなったピーちゃんを裏庭へお線香と花を手向けて皆で弔いました。思い返せば、親雀はあの時、別れを告げに巣箱へ来たのかも知れません。
東京の片隅でホッとあたたまる“小さな愛”を運んで来てくれたピーちゃん、天国へ飛んで還れたね。
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「どうしたの?」と私がそこへ行くと、
家内の手には小さな“子すずめ”が一羽、羽を弱々しくはばたかせていました。皆が心配そうにのぞき込んでいます。
もう一度、どうしたの? と尋ねると、
「巣から落ちたみたいだわ」と家内が答え、皆が頷きました。
「親鳥が心配しているんじゃないのかしら」
「まずは巣箱を作って…」
「お腹を空かせているんじゃないかしら?」
日頃の業務にも増して迅速な連係プレーで各自役割を果たし、あっという間に子雀はクッション替わりにちぎった新聞紙が敷き詰められた小箱の中へ。ネット検索で「巣落ちした子雀のエサへのやり方」を調べ、嘴を開けさせてハチミツ水を一滴ずつ飲ませています。
すると誰かが「アワやヒエでもいいかもね」と言い、十五穀米の小袋からより分けて巣箱に入れました。
桜の木の下に駐車している私の車の屋根に小箱を置いて、ひとまず室内から観察することにしました。すると親雀でしょうか、辺りを警戒しながら小箱の周りを飛んで、一度だけ中にサッと入ったかと思ったら、すぐに飛び去ってしまいました。
夕方になり、今度は庭の楓が枝分かれしているところに小箱を移して斜めに屋根をつけて置き、今夜は様子を見ることに。
「親が迎えに来て一緒に飛んで帰れるといいわね」
皆が「ピーちゃん、また明日ね。頑張ってねー」
と声をかけて退社します。
18時、夕焼けの茜色が広がる空の下、町内のスピーカーから“夕焼け小焼け”のメロディーが流れてきました。
翌朝、ピーちゃんは生きていました。ただ昨日、一度車の屋根から飛び上がろうとして落下した時に首を傷めたようで、痛々しく首が上がりません。それでもハチミツ水をあげると羽をパタパタさせます。
「獣医さんに診てもらいましょうよ」
皆の意見に応えて家内がネットで探した近所のペット病院へ、さっそく社員が自転車で連れて行きました。結果は……皆、息を飲んで聞きます。
「ブドウ糖を2~3時間おきに服用させる事、あとはこの子の運次第とのことです」
皆、ホッとした表情で「ピーちゃん頑張れ!」と励まします。翌日は土日をはさみ、日曜は私共も終日家を空けるので、3時間ごとのエサやりもままならぬということで、一日入院させる事にしました。
そして月曜日の朝。
病院から悲しい知らせがありました。
家内は涙目でバイクを走らせます。
冷たくなったピーちゃんを裏庭へお線香と花を手向けて皆で弔いました。思い返せば、親雀はあの時、別れを告げに巣箱へ来たのかも知れません。
東京の片隅でホッとあたたまる“小さな愛”を運んで来てくれたピーちゃん、天国へ飛んで還れたね。
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