クロワッサンB.C.
雨期から乾期へと移りゆく狭間の11月上旬、タイ王国のプレジデント・ベーカリーを訪問しました。
タイ国民が崇拝してきたプミポン国王が逝去されて間もない市街は誰しもが黒い服で喪に服しており、表通り両脇の建物には壁一面に白黒の鯨幕が延々と掛けられていました。まるで空気までもが悲しみに耐えているかのように国王の死を悼んでいる様からは、いかに尊敬の念を集めていたかが窺い知れます。
それでも街中を包む喧騒は相変わらずで、ドアを開けたまま走る満員のバスやトゥクトゥクの三輪自動車、そして大混雑の中をすり抜けてゆくバイクタクシー、あちこちで鳴り響くクラクション。商店の前の通路には物売りの屋台と食堂屋台がひしめき合い、観光客も交えての大賑わい。悲しみにくれるばかりでなく、前向きに日々の生活も大切にする決意のようなものも同時に感じさせてくれます。
今回の宿はチャオプラヤ川沿いのシャングリラ・リバーサイドホテルで、あの有名なオリエンタルホテルの隣に位置するラグジュアリーホテルです。訪問の目的は、デイジイの倉田博和シェフがプレジデント・ベーカリーに招かれて開催する製パン実技セミナーの同行取材です。
前日仕込みを終えて明日に備え、夕食はホテル内の洒落たイタリア料理店で軽く済ませましょう……といきたいのですが、生ハムとオリーブがあるとワインが止まりませんね。
翌朝、迎えのワゴン車にてスワンナプーム国際空港近くのバンチャン工場まで往路約1時間で到着、応接室に通されると懐かしい友人達が笑顔で迎えてくれました。
「アプチャット社長、お久し振りです」
「スガタサンも、元気デシタカ?」
「僕は胃癌の手術を2回受けましたよ」
「ワタシも療養中デス」
「お互い養生しましょう。長い人生ですからね」
「ハイ、ソウデスネ」
笑顔でハグします。
「ハーイ、マリーさん! 元気そうですね」
プレジデント・ベーカリーのNo.2で気立ての良いマダム・マリー。相変わらず両手の指には高価な指輪と金無垢のアームリング、オートクチュールのスーツを着こなして笑顔でのハグです。
今日の実技セミナーの参加者は、製造の役員と責任者10名だけのスペシャルプログラムです。クロワッサンB.C.の焼き立てを試食したマリーさんの目が丸くなりました。
「ワンダフル!」
次々に焼き上がるパンの試食では、その形やデニッシュに合わせたフルーツのマリアージュの素晴らしさに誰しもが驚愕して感嘆の声を上げました。
そもそも3時間で15種類以上のパンを焼き上げる事だけでもアンビリーバボーなのに、この仕上がり様とくれば、今シーズンの広島カープの如く「神ってる!」としか言い様がありません。2017年にはさらに充実したセミナーの再開催を約束して、無事帰国しました。
倉田シェフ曰く
「プレジデントの食パンはクオリティが高いね」
私は十二穀食パンのおいしさに感動しました。
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