シャルキュトリ
4月とは思えぬ冷たい雨が降り続いた翌朝、気持ちの良い花散らしの温んだそよ風が小刻みに枝をゆらして、くるくると桜の花が舞い散る様子をガラス窓越しに見やれば、幻想的な風景に飽きる事は無く、むしろ書きもの中の私は筆を止め、しばし物想いにふける有様。老化現象の現れなのでしょうか。父母の事や愛犬との想い出ばかりが脳裏を駆け巡ります。
TVではお天気キャスターが「熱中症にご注意を」と昨夜呼び掛けるほどの寒暖差。まさに三寒四温から抜け出し、苦味のある春の山菜が市場を賑わしてくれる“おいしい春”がやって来たのでしょう。日常生活では苦い思いをせぬように健康を心がける事はこの時季、最も肝要だと心得ます。
翌日、有明のがん研での検査の帰路にて築地市場の場外に立ち寄り、中国語と韓国語が飛び交う雑踏の中を散歩がてら見聞していると……あらら!
なんと、「コシアブラ」の入った箱が半開きになっていました。コシアブラが出回るのは5月初旬ごろなのに……と思いつつも、一番の好物ですから店の女将さんに「このコシアブラ欲しいのですが」と声を掛けると、
「あらいやだ、出しっぱなしにしてあるわ。
御免なさいね、これ、料理屋さんからの注文品でお売りできないのよ」
負けじとおねだりを続ける私に根負けしたのか、10本入りの新芽茎を2箱譲ってくれました。もちろん1箱はその日の晩酌のアテに。春の到来をヴーヴ・クリコのシャンパンで家内と祝い、ひと足早く堪能した次第です。
幻想の世界に心を馳せていた私は庭に出て、桜吹雪と枝越しの木漏れ日を浴びつつ、ふと足元に目をやれば“ゼンマイ”がくるくると芽を巻いてあちらこちらに顔をのぞかせていました。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
4月12~18日まで新宿・伊勢丹で開催されていたフランスフェアの初日に行って来ました。フランス本国からパン職人が来日して、本場のパンを楽しませてくれるという好企画です。チーズやワイン、そしてシャルキュトリ等、こだわりの逸品が豊富に用意されていました。
パリで2度グランプリに輝いたブーランジェ、ジブリル・ボディアン氏はブリーチーズと黒トリュフのスライスをサンドしたバゲット。実にフランス人らしい発想ですね。日本からは志賀シェフのシニフィアン シニフィエがフェア限定の特製パンを販売していました。
おいしいパンとチーズに各種のシャルキュトリを、洒落た器に飾り並べて葉桜を愉しめば、桜が散るのを待つかのようにツツジの蕾がプックリと膨らんで、もう初夏の足音が忍んで聞こえてきそうです。
■□■ ■□■ ■□■