ルイ13世
モロッコ王国から友人夫妻が6月の始めに日本に来られました。
私の大切な友人、モロッコ在住のノエル古河夫妻は、毎年1回来日して日本食を味わうのが楽しみだそうで、今回はカサブランカ州知事の息子さん夫妻、そして観光大臣の娘さんご夫妻同伴のグルメツアーです。
私たち夫婦とは2日の夜に連れ立って銀座6丁目へ。家内お気に入りの「すし処はらだ」を貸し切ってのパーティーだったのですが、その前にシャネルのリシャール・コラス社長ご夫妻の粋な計らいで、シャネルの最上階にあるルーフテラスにご招待いただきました。ここで思いもよらぬハプニング! というか素晴らしいプレゼントが用意されていました。
シャネルビルではアラン・デュカスさんとシャネル社のコラボで十数年前よりフレンチレストラン「ベージュ東京」が運営されており、ルーフテラスでは食事の前に銀座の夜景を観ながらシャンパンとアペリティフを楽しめるので、この夜は顔見知りのゲストの皆さんがシャンパングラスを傾けて笑顔で静かに語らっていました。
梅雨入り前の夜空には星が瞬き、ライトアップされた東京タワーが赤く染まっています。我々のテーブルの前には見た事のないバカラのコニャック瓶が観音開きの豪勢なハードケースに収まり、その脇には10個のバカラグラスが並んでいます。私たちはシャンパンを飲んでいたのですが、しばらくすると驚くべきアトラクションが始まりました。
レミーマルタン社の素敵な女性スタッフが「みなさま」と語り始めます。
「こちらのコニャックは『ルイ13世』と申しまして、100年前に仕込まれた逸品でございます。本日はコラス社長のご厚意により、皆様のために試飲会を行います」
ソムリエがボトルを開栓してから適量をバカラグラスに注いで次々と最初の一杯をクルクルとワインのように回していきます。
「これはグラスをリンスしているのです」
この説明には驚きました。全員にグラスが行き渡り、乾杯です。すると何という事でしょう! グラスを交わした音が、銀座の夜空にまるでハンドベルのような澄んだ音が響き渡り、ひと口含めば……どのように表現することができましょうか?
決して大げさでなく、「100年の恵み」が今ここに花開いています。大切に受け継がれて育てられ、1世紀もの歳月を経て現代の空気に触れる。絶品なるこの一杯に出会ってしまっては、もうXOには戻れません。
その後の寿司がより一層おいしくなったのは言うまでもありません。ルイ13世、恐るべし!
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