契り
惜しまれつつ亡くなられてから早10年。天才作詞家の阿久悠さんを偲ぶコンサートが東京国際フォーラムで開かれました。生誕80周年、作詞家デビュー50周年、没後10年というメモリアルづくしのリスペクトコンサートへ招待状を握りしめて家内と日間通しで行って参りました。とにかく驚かされたのが、豪華な出演陣。これはNHKの紅白歌合戦よりすごいんじゃないか?と思わせる顔ぶれです。
この歌謡ショー、司会者がいませんでした。なにより主役は「詞」ですから、ステージ上部に設置された巨大なスクリーンに注目すべき演出が施されていました。まず出演歌手名が流れ、スクリーンの後ろに隠れた生演奏のオーケストラがイントロを奏でると、いよいよ歌手の登場です。そして、歌い始めと同時に原稿用紙に書かれた曲名と歌詞が映し出される訳です。これは盛り上がりますね。
初日のトップバッターは私の好きな八代亜紀さん。歌はもちろん「舟唄」です。スクリーンの原稿用紙には〈作詞:阿久悠、作曲:浜圭介〉と記され、そして歌詞が続きます。
お酒はぬるめの 燗がいい
肴はあぶった イカでいい
説明不要、誰もが知っているこの歌詞をすべて記すのは控えますが、詞を目で読み追いながら、ステージ上の歌手の生歌を観て聴く。これは初めての経験でした。実に感動そのもので、日本演歌の真髄を実感させられました。
歌はもちろんですが、詞がなんとも良いですね。どんな感性を持ってすれば、このような詞が書けるのでしょうか? 「女は無口なひとがいい 灯りはぼんやり ともりゃいい」……すごい。すごい! すごい!
盛り上がりをみせるショーの中盤、スクリーンに「山本リンダ」の名前が映し出されると今日一番の大拍手が起こり、大胆に美脚を披露するショートパンツの衣装で登場するや、大きなステージを縱橫に「ウララ ウララ ウラウラヨー」と歌い踊り会場を沸かせます。往年のリンダ様の顔がスクリーンにアップされても、リンダはリンダ。圧巻のステージでした。そして石川さゆりさんの「能登半島」には胸が熱くなりました。
初日のトリは五木ひろしさんの「契り」でした。
あなたは 誰と 契りますか
永遠の心を 結びますか
波のうねりが岸にとどく
過去の歌をのせて
激しい想いが 砕ける涙のように
会場は水を打ったようにシーンと静まりかえっています。スクリーンの歌詞を読みながら、五木さんの生歌を聴き、注視します。途中の詞は略して、私の好きな一節を。
朝の光が海を染める
生きる夢に満ちて
まぶしい願いが きらめくいのちのように
そして最後は
愛する人よ 美しく
愛する人よ すこやかに
リフレインで盛り上げてから、切なく静かに曲が“消えて”ゆきます。日本の演歌って、素晴らしいですね。そして、阿久悠さんの偉大さ。
きっと阿久悠さんの“うた”は後世にわたって歌われ、語り継がれることでしょう。
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