MOTTAINAI
世界地図から見える世界史は戦争と略奪の歴史であった事は周知の事実です。日本は古来より島国での定住民族ですが、日本地図の中の勢力図は絶えず塗り替えられて今日があります。世界に目をやれば太古の時代より移動民族がついこの間まで世界を席巻していました。それも、とてつもない早さで略奪と移動を繰り返し、行く先々でまた奪うという戦いと政治の理屈、「征すれば必要な物が手に入り、不必要なものは捨てて移動し、新たな国土を獲得する」ことが日常であり常識だったのです。
しかるに移動民族にとって「もったいない」という概念はなく、ひたすらに奪い、捨てる。一方、定住民族にとってはモノを大事にする「もったいない」が文化の根底を支え、繁栄の基礎となったのではないか、と私は考えます。この「もったいない」は、今や世界で使われている最も有名な日本語ではないでしょうか。
この言葉を世界に広めたのはケニア人女性のワンガリ・マータイさんです。彼女が2005年に来日した際に自身が感銘を受けた日本語「MOTTAINAI」、この言葉をマータイさんは、
環境3R+Respectと翻訳して提唱しました。
(3R=Reduce[ゴミ削減]、Reuse[再利用]、Recycle[再資源化]、そして「尊敬の念」を意味するRespect)
これらを一言で表せる合言葉、MOTTAINAIというメッセージは世界へと拡散しました。
マータイさんはケニアの国会議員として環境副大臣をはじめとする幾多の功績が認められ、アフリカ人女性初のノーベル平和賞を受賞しました。
若かりし頃、マータイさんは自身の劣悪な生活環境をいとわずに7本の植樹をしたといわれています。それが現在でも続いている「グリーンベルト運動」で、植林事業を含めた持続可能な開発・地球環境問題への提議でありました。これが原点なのです。
「MOTTAINAI」から3年後、私は訪日されたマータイさんと駐日大使館内の大使公邸にて、当時のアオリ大使のお招きで夕食をご一緒させていただきました。席上で私と共に招かれた「さぬきや」の近藤君が持参した大吟醸酒をすすめたところ、マータイさんは何と言われたと思いますか?「おいしいわ!」といって両肩を上げ、ウインクを返してくれました。お米を70%近くまで磨き上げて仕込んだお酒に対する「MOTTAINAI!」をどこかで期待していた自分が恥ずかしかったです。
この3年後、マータイさんは天に召されました。しかし、彼女が始めたグリーンベルト基金には今なお世界各国から寄附が集まり続けています。
年明けに見た夢の中で、マータイさんが語りかけてくれました。
「循環させるのよ、社会のために。」
駐日ケニア大使公邸でのディナー、あの晩の笑顔が鮮やかに浮かんできました。思いもよらぬ“再会”でしたが、暮れの大掃除がてらの小物整理でマータイさんとの2ショット写真を見つけたことが頭に残っていたのでしょう。
私たちの業界には何が足りず、また無駄にしているのでしょうか。初夢で託されたマータイさんの言葉をかみしめた新年のスタートでもあります。
■■■■■■■■■■■■■■■