もやしあんかけ中華そば
白玉の
歯にしみとほる
秋の夜の
酒はしづかに
飲むべかりけり
詩人・若山牧水の名句ですね。さわやかな秋の夜はベランダに出て盃に月を浮かべて飲み干す。先人達の “粋” は何世紀を経ても人の心を和ませてくれます。アテはみたらし団子がいいですね。焼いた団子にたっぷりかかったあんかけ。香ばしい醤油味が酒に合う。
私はこの、ドロっととしたあんかけが大好きなんです。料理で言えば中華のおこげ。眼の前で揚げたての麺に一気にかけると、ジュー! と湯気を上げて聞こえる至福のひととき。まさに五感を刺激してくれます。かた焼きあんかけそば、カレー丼、天津飯、皿うどん、さらに肉団子の甘酢あんかけやフカヒレの姿煮などなど。
そして、数あるあんかけ料理の中で私が一番好きな料理は……
「もやしそば」であります。
具はもやしのみ。これは日本の中華そば文化の革命だと私は思うのです。71年の人生において、グルメな食事に目覚めて以来これはスゴイ! と驚嘆した一品。毎日食べても飽きない料理であります。中華そば屋で頑固そうな親父が「ヘイ、お待ち」とカウンター越しに湯気が立ち上るもやしそばをドンと置きます。割り箸を割る瞬間から私は心ウキウキ、あんかけのもやしが丼の表面を覆いつくし、麺の姿は見えません。割り箸を丼の奥にくぐらせてたぐり上げ、フーフーと “クーリング” してからあんかけがしっかり絡んだ麺を一口頬張ります。次はレンゲにすくったスープと共にシャキっと仕上がった、絶妙なる “アルデンテもやし” の食感を堪能する。あー、これぞ至福のあんかけもやし中華そば。思わずオマージュで一句、詠んでしまいます。
あんかけの 歯にしみとほる 秋の夜の
酒ともやしそばは 静かにすするべかりけり
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