釜揚げの刑
自宅そばにある通称「コリアンストリート」は山手線・新大久保駅前の大久保通りを指します。休日には原宿竹下通り並みの混雑で、グルメやコスメ、アイドルグッズなど韓国アイテムを求める若者で大賑わいであります。
タピオカティーにハットグ、チーズタッカルビと次々にブームが到来しては移ろっていますが、最近では “チュクミ” などイイダコ料理が話題席巻で新規店がしのぎを削っています。
そんなコリアンストリートにあってシャオウェイボーという中国屋台料理のレストランがオープンしたのが昨年11月頃のこと。前を通るたびに気になっていましたが、店頭に掲げられた中華揚げパンの写真が特に目を引きます。朝食にお粥と一緒に食べるタイの揚げパン(パートンコー)に似てるな、よし試してみようとついに先日、散歩の途中でテイクアウト購入。1本220円というプライスから食べきりサイズかな、などと想像していましたが……
実際は長い、大きい!
全長25×直径5cmほどでパートンコーとは比べ物になりません。2本注文したことを軽く後悔しつつ受け取るとバゲットを手にしている感覚です。しかしこのボリュームで1本220円! 似て非なるものです。
巨大な中華揚げパンの正式名称は北京語で「油条」、ヨウティヤオと発音します。さらにググッてみると、油条誕生にまつわる衝撃の事実を知りました。
遡ること宋の時代、南宋は敵対する金国に奪われた領土を取り返すべく、国民の英雄である将軍・岳飛が遠征していました。しかし裏では悪名高き宰相、秦檜夫婦が金国と秘密裏に通じて岳飛を謀反の濡れ衣をかぶせて処刑してしまったのです。悲しみにくれる人々の思いを受けて、とある茶屋の主人が「にっくき秦檜夫婦を釜揚げにしてやろう」と、小麦粉生地を捏ねて長い棒状にのばし、2本を重ねて夫婦に見立て、煮えたぎった油で揚げたのが油条のはじまりなのだそうです。国民の怒りを見事に表していますね。
これが爆発的に流行して誕生から500年、ルーツである江南の地から遠く離れたわが町のコリアンストリートでも手軽に食べられる人気メニューとして受け継がれています。
さて、21世紀の現代に釜揚げの恐怖におびえる権力者はいるのでしょうか? おそろしあ。
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