リバーサイドホテル その3
バンコックからカンボジアの首都プノンペンまではバンコック航空で55分のフライトです。
「さて、もう修平君は迎えに来ているかな?」
修平君は5年前に下高井戸駅前の大衆酒場「紅とん」で知り合った青年です。当時は日大文理学部で学ぶ4年生でした。彼については私のフェイスブックに詳しく書いてありますので、ちょっとのぞいて見て下さい。
大型のトランクには“ヘヴィ”のステッカーが貼られ、大きなダンボールBOX1つ、すべて修平くんへのお土産です。ひやむぎ、めんつゆ、パスタ、レトルトのパスタソース、納豆、煎餅、醤油、マヨネーズ、そしてプレジデントベーカリーからいただいたパンの数々。
総重量は実に58キロ!
真っ黒に日焼けして髪を後ろに束ねた修平くんがニコニコと近づいてきました。
「菅田さん、お久し振りです!」
今にもドアが外れ落ちそうなボロボロのタクシーに乗ってホテルを目指します。
「何年になるかな、あれから」
「5年です」
あれからとは、居酒屋で3人の男子学生がホッピーで焼きとんを頬張りながら、大学卒業後の進路を熱く語り合っていた隣のテーブルで私と家内が紅とんを楽しんでいた時の事です。彼らが発した「バックパッカーもいいね!」の一言に、思わず反応してしまい、声を掛けていました
「おっ、懐かしい響きだねバックパッカーとは」
続けて、
「ところで、どこに行くの?」
と訊けば、
「えーとその、まだ決めてません」
「それじゃあ、今から家に来ませんか? 僕も昔バックパッカーで15年ほど世界を放浪したんだよ。写真もあるし、さあ飲み直しだ!」
ということで3人を引き連れて我が家へ。家内は呆れていますが、若者と共に飲むのが楽しい事は知っています。「私、先に帰って用意していますね」。なんて良い奥さんでしょうか。
写真を見ながら
「へえーすごいですね」
「めちゃ黒いですね菅田さん」
「短パンにビーサン、上半身裸でバンガローの鍵を首からぶら下げて原チャリ乗ってるの、カッコイイですね」「いつ頃ですか?」
「34、5歳ごろかな。これはタイのコムサイだよ。村の子供たちと海に入って網をめぐらせておくと、カマスみたいな魚が穫れるんだ。包丁で開いてパパイヤの木に網を張って、洗濯バサミで干せば1時間で干物のできあがり。ココナッツの殻で作った炭でBBQするとこれがまたおいしいんだ。でもね、一つ問題があって、匂いを嗅ぎつけた蟻の群れが網に這い上がってくるのが、わずか10分後なんだよ!」
「それ、本当ッスか?」
そんな話に時の経つのも忘れて、その晩は大いに盛り上がり、その後も3人は卒業までたびたび我が家を訪れてくれましたが、そのうちの1人、修平君がナント、卒業後すぐに私が教えたバンコックのカオサンに3ヵ月滞在後、情報収集してたどり着いたのがプノンペンであり、今日が5年越しの再会というわけです。修平君はミュージシャンとして、今ではプノンペンで友人と小さなバーを共同経営しながら、ラジオDJやTV出演、ライブ活動も行うなど、プノンペンで一番有名な日本人になっていました。
「菅田さん、この先の左側に流れているのがメコン河です。その先に見えるリバーサイドホテルの“ヒマワリ”を予約しました」
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