尻尾
引っ越し先の千駄ヶ谷の事務所。私の机からは東京体育館裏のサブグラウンドが見下ろせます。6本の白線がぐるりと囲む200mトラックの内側は人工芝のフットサルコート。ここでストレッチをしたり練習に励む若者たちの姿が日常となっています。
ふと机の脇の本棚に視線を移すと、まだ整理がつかず雑然と並ぶ背表紙から、とある一冊のタイトルに目が止まりました。A4判の絵本を手にとりパラパラめくってみると「シデコブシと愛犬」の絵、タイトルは「種蒔きもせず」。これは、新約聖書マタイによる福音書6章26節の御言葉からの引用ですね。
その絵は大きく描かれたシデコブシの花の下に茶色毛の雑種らしき犬が四つん這いでうたた寝する姿が描かれています。隣のページにも犬の絵があり、白い犬が尻尾を丸めて前足を拡げて座り、こちらを見ているポーズをとっています。添えられた詩は、
心ってどこにあるんだろう
おまえは尻尾の中に よろこびではち切れそうな心が
きっとその中で踊っているんだ
人間も大昔 尻尾があったと聞いたことがあるけれど
心も一緒に取れてしまったのだろうか
ここまで紹介すれば、お気づきの方もいることでしょう。この本の作者は全国で花の絵画展を開いている、私が大好きな画家・詩人の星野富弘さんです。
なんという感性、いかにしてこのような花と言葉が生まれるのでしょうか! シデコブシ”は桜と同時期に開花する、春を告げる花です。
花言葉は「歓迎」だそうです。これは両手を広げて喜びを迎える様を例えたらしいのですが、まさに70周年を機に辿り着いた千駄ヶ谷の地に歓迎されたことを、この詩画集を偶然に手に取り、そして開いたページが教えてくれたのかもしれません。
「種蒔きもせず 刈り入れもせず」という聖書の御言葉は、読むほどに“自分”を考えさせられる御言葉です。ぜひ、この機会に聖書を開いてこの御言葉の意味を共有しませんか。そして、心の中で自分に言い聞かせるのです。
尻尾は心と共に取れてしまったのではないよ
実は心の中に、喜びではち切れそうな
尻尾が残っているんだよ
心機一転。さあ、がんばろう。
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