ティラミス
「何、見てるの? どうかしたの?」
人は皆、不安や心配事が頭から離れない時、物思いにふけって焦点の定まらない目で一点をじいーっと見続ける事、ありますよね。それはどのような状況においても、です。
「ううん。何でもないよ」
「嘘おっしゃい、どうしたの?」
「だからー ……」
2人の視線はTV画面に注がれます。そして無言の時が流れます。数秒か数十秒か? 実際にはその程度の沈黙でしょうが、とても長く感じられました。空になっていたショットグラスにウイスキーを注ぐと、画面を直視していた家内が突然「チンドン、ブタポー」と訳の分からぬ奇声を発しました。「エッ? 何?」と尋ねると、「たわけた事を申すでない!」と自分のショットグラスをガラスのテーブルに “トン” と目も合わせずに置きました。注げ、ということですね。
「ハイハイ」と私。
「ハイは一度!」と家内。
このやりとりがあって、私の不安は払拭されました。心の隙間を読んで漫才のボケとツッコミのように一瞬で雰囲気を切り替える才能が家内にはあるのです。その後は他愛のない会話で酒が進みます。
「昨年、ローマ法王庁の駐日大使館で大司教のジョセフ大使にランチをご馳走になった時の事、覚えてる?」
「ああ、修道女さんがデザートに出してくれた自家製のティラミス、絶品だったね!」
実はこの時、TVで平成の流行をダイジェストで振り返る映像が流れており、その中でティラミスが紹介されていました。突如ブームを巻き起こしたイタリア発祥のスイーツで原材料はマスカルポーネなのですが、当時加熱する人気に供給が追いつかない事態になりました。そこで急遽開発されたのが不二製油さんのマスカルポーネならぬ『マスカポーネ』でした。「へえーそうなのか」。同じ業界に身を置くばかりか、弊社のスポンサーでもある不二製油さんの製品ラインアップに疎かったこと、恥じ入るばかりです。はい、やっぱり私は “たわけ” ですね。ちなみに、この平成を代表するスイーツの意味は “私を元気づけて” だそうです。
早いもので胃がんで全摘出して3年目となる先日、術後検診で胃カメラを飲んだところ、食道がんが見つかりました。4月に手術が決定したのが今朝の事。そんなタイミングですかさず私を元気づけてくれる家内の機転に感謝です。
病にくじけてふさぎ込む暇はありません。9月に米国ラスベガスで開催される「IBIE2019研修ツアー」を企画しました。最新のパン・菓子製造技術、原材料やパッケージ、最新トレンドが一堂に会する同見本市をはじめ、アグレッシブで充実したプランを組みました。もちろん全日程、私も元気になって引率します。皆さん、ご一緒しませんか?
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