私をおうちに連れてって
甲州街道から中野通りを青梅街道へと抜ける手前の左側に、30年程前から車で通るたびに気になっていたお店がありました。
その名は「美智子カレー」。
信号待ちでチラッと店内をのぞき見ると、カウンターが6~7席だけの小さなカレー専門店です。いつか食べようと思いながらも駐車場がないので躊躇していたのです。10年程前にはお店の前にノボリの赤い旗が3本ほど風にそよいでいました。
白抜きのコピーは“私をお家に連れてって!”です。
なんともほのぼのしたユーモラスなキャッチコピーではありませんか! そもそも店名が畏れ多いのに、ましてや“お家に~”とは驚かされました。通るたびに店の存在を確認し続け、今度こそと思い続けて30年、一昨年「美智子カレー」は姿を消しました。いつか行こう、お持ち帰りでもいいから、どんな味なんだろう? なんて思いながら30年の時があっという間に過ぎ去り、店内どころかオーナーの顔も拝めず、もちろんカレーも食せず。すべては夢うつつとなってしまいました。
こんな事が、長い人生の中では度々あるものです。昔、バックパッカーの友人に教わった迷言があります。
「インドはね、呼ばれた人だけが行けるんだよ。行こう行こうと思っていてもインドは呼んでくれないよ」
・・・確かにそうかもしれませんね。当時の私はバイタリティだけは自慢でしたから、カシミールなど今なお紛争が続く危険なエリアにも足を伸ばしていました。何事も行動力があってこそのなせる業、それが“実行力”なのでしょう。思いあぐねているだけでは何事も叶えられません。それは人生の中で最も大切な事だと私は思います。
それにしても残念! どんな人がどんな味のカレーを、どのように提供していたのでしょうか? 行動力、実行力の伴わなかった私は未練がましく今日もその場所を通過します。
追伸:「美智子カレー」さん、実は現在デリバリー&ケータリング専門で営業されているとのことでした。未知なる味を確かめるチャンスはまだ残されているようです。