漢(おとこ)の引き時
リョーユーパングループの北村会長は、大相撲・立浪部屋の毎九州場所で自社が所有する糸満市の野球場に隣接する宿舎をはじめ、土俵と豊富な食材を提供されています。そんな間柄ですから私が場所中に訪福する時も立浪親方や関取衆、若者、呼び出しから床山さんまで、北村会長のご紹介で部屋ぐるみの付き合いとなる訳です。
そんな縁がきっかけで、10年ほど前から毎場所、時間の許す限りTV桟敷で観戦し、時には国技館で応援する機会にも恵まれて益荒男(ますらお)たちの力と技を体感しています。昨年は偶然、トランプ米大統領・安倍総理の両ご夫妻が来館された日に観戦し、2階椅子席の最前列から御一行を拝見できたことは一生の良き思い出となりました。
先月の九州場所は両横綱が欠場、立浪部屋の部屋頭である前頭五枚目の明生関も7日目から休場するという波乱の春場所となりました。結果は前頭十七枚目の徳勝龍関が20年ぶりの “幕尻優勝” で千秋楽を締めましたが、私にとって “この大一番” だったのは、第41代立行司、式守伊之助が土俵上で軍配を返して「この一番をもちまして千秋楽でござりまする」との口上で始まる結びの一番の一つ前、豪栄道関と阿武咲関の取組です。
東西から2人の力士が土俵に上がった時、胸が熱くなりました。向こう正面に審判として座し土俵を見つめる、豪栄道関の師匠である境川親方の姿をTVカメラはアップで捉えます。眼鏡の奥にはキラリと光る涙が見られました。「あっ、もしかして?」。
結果は豪栄道関は土俵際に押し倒されて黒星。カド番を5勝10敗と負け越しで終えたことで大関陥落は決定しています。次回の大阪場所で10勝すれば大関復帰となるのですが……。花道を引き上げる豪栄道関の背中には土俵の砂がべっとりと貼りついていて、一抹の寂しさを誘います。
翌日、「大関・豪栄道が引退」とTVやネットで速報されました。地元・大阪場所での返り咲きはなくなりました。取組前に見た境川親方の涙は引退の覚悟をすでに知らされていて、最後の取組に土俵で塩をまく姿から大関の壮絶な相撲人生が走馬灯の如く親方の脳裏に浮かんでいたのかもしれません。
潔く身を引く “漢” の美学は、こうして全うされました。来場所からは武隈親方として後進の指導にあたるそうですが、美しく男らしい相撲道を受け継ぐ弟子たちは幸せです。感動をありがとう!
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