密なラーメン店
甲州街道の京王線笹塚駅近くからまっすぐ、ナベヨコ(鍋屋横丁)交差点で青梅街道を経て中野駅に通じる中野通りは私のライフロードです。この界隈には愛車の修理・車検を任せている正規ディーラーの工場や大型ホームセンターなどがあり、免許を取って車に乗り始めた学生時代から主要道路に出る抜け道としてよく通りました。路線バスも運行する人口密度の高い地域で、道沿いには昭和レトロな個人商店が住宅と共存して活気もまずまず、シャッターが下りっぱなしということもありません。全国区の知名度とは無縁ながらも、昔の面影を令和の時代にも色濃く残す、不思議な町並みといった風情です。
以前当コラムでも紹介した、中野通り沿いの美智子カレー。数十年間にわたって、店の前を走るたびに “いつか一度は” と素通りを続けているうちにデリバリー専門店となっていて、ミルクホールっぽいカウンター席だけの店内に入る事は叶いませんでした。なにせ店名が恐れ多いこと、さらには店頭に立てかけられた黄色いノボリに記された「私をお家に連れてって。」というキャッチコピーに軽く圧倒されたりと、少なからず躊躇していたかもしれません。想像だけが空回りしていました。
中野通りにはもう一軒、気になる店があります。かつて美智子カレーが店を構えていた場所のすぐそばにあるラーメン屋さん。ここも10年来にわたり、“?” 状態が続いています。店頭の駐車スペースには高級車がひしめき合うように並び、入口が開け放たれている店内は常に満席! いささかチグハグな印象を与える外観に対して、店内の雰囲気や料理の味は? そして大将のキャラクターは? やはり好奇心を掻き立てられます。
そしてついに1ヵ月ほど前のこと。平日のランチタイムを過ぎた頃合いで通りかかると1台分の空きスペースを発見し、思わず入店。店内はほぼ満員で一人客の私はカウンターに座って周りを見渡すや、驚きの光景が! 店主をはじめ3人の従業員はすべてノーマスクでアクリル板の仕切り板もない、まさに “密” です。入店した以上、とりあえず急いで食べて退店しようと慌ただしく注文。
天井から吊り下げられた2台のモニターを見やると、店頭の駐車スペースを映しています。なるほど、これで駐禁の不安を解消するわけですね。なんともマイペースな店の雰囲気を受け入れた常連客にしてみれば、たしかに変わりの効かない “名店” といえるのかもしれません。
やがて私のワンタンメンが、フィリピン系のノーマスク店員さんから「ヘイオマチ」と手渡されました。60代前半らしき店主もニコニコの笑顔、つまりノーマスクで鍋をふるっています。ともあれ実食。スープを一口すすると・・・
「オオッ、旨い。懐かしい味だ!」
黄金色に輝く魚介系のスープにプルンとした食感のワンタンと麺。はるか昔、学生時代にはどこにでもあった町中華の味です。今では若者が好む濃厚な “家系” や激辛の担々麺が人気ですが、この店は昭和世代の私たちが愛し、いつしか絶滅危惧種となった「醤油と味の素」のラーメンです(ナルトも入ってます!)。
粉もん料理はいいですね。特にラーメンは身も心もあたためてくれます。でもいくらおいしくても、密は駄目です。
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